松本清張....『一年半待て』
オリンピック開催中は、ついつい夜遅くまでテレビを見てしまつた....
だからオリンピックが終わった時は、内心ホッとした訳だ。
これで睡眠不足は解消だ....と。
ところが、ところが、ケーブルテレビの深夜番組ですごくイイ番組を
放映している訳だ。 で、ついつい観てしまう。
その中でも、特にハマッテいるのが、松本清張没後20年の記念シリーズだ。
友人が言うには....
『 今と原作が作られた頃では、時代背景が違いすぎるから、例えばドラマの中ですれ違う
場面が有る.... でも、今は携帯電話が有るので、ちょっと考えられない!
すれちがってしまう事が、物語の結末に大きく影響を及ぼしてしまう......としたら
時代背景が違えば、原作と違ってしまう。 』 と。
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マー、私が面白いと感じる事は、その様な事ではない訳だ。
今時のミステリー番組を見ていると....主人公なる人物が、必ずと言っていいほど、
最初から最後までドラマの進行、人間関係、事件に至る動機、その生い立ち、性格....
等を解説する。
又、解説しなければ、観ている側も、ドラマの進行がいまひとつ理解出来ない訳だ。
その点、松本清張作品は違う!
ひとり、ひとり、人間の顔が違うように、ひとり、ひとりの人間が、違う心を持っている。
その、一人、一人が因を経て縁に触れ、事件に係わり異彩を放っていく様は
どうして、どうして、解説など必要としない....。
例えば、『 一年半待て 』.....。
妻が懸命に働いた事が、皮肉にも夫を退廃に向かわせる。
仕事先で出会った男との新しい生活を創る為、頭の良い妻は、
すべての知恵と労力を駆使して、夫の殺害とその裁判と、世間の同情を
勝ち取る。その期間を見積もると、推定、おおよそ、一年半....。
そこで、前もって男には『 一年半待ってほしい 』と言う。
どんなに完ぺきに事がすすんだ様に思えても、やはり、欠けた側面はある訳だ。
よりにもよって、一年半待たせた男に依って、『 一年半待て 』という疑惑の内容が
指摘され、暴かれる。
これは、ドラマだから.....ではない。
人間の内に秘めているものというのは....善し悪しは別にして、凄まじいものなのだ!
胸がいっぱいになつた。
欲して欲して得ることは、同時に失うことでもある。