粟根先生と一間書棚の想い出
高校の同級生、それも誰かれなく会えば必ず出てくる、
この人の名前、そして、その名言…..
内容は、現実的では無いけど、かと言って、言い得て妙でもある。
高校を卒業して、もう〇〇年……。
長い長い月日を経て、それでも、卒業生のほとんどが話題にする名言とは…….。
その人は、私達の高校で『 地理 』を教えていた。
隣県ながら隣り町、広島県庄原市のお寺の住職でもある粟根先生。
粟根先生によると、岡山県は嫌われ者だ!と言う訳だ。
岡山県とは、私の郷里であり、同級生達の郷里である。
気候温暖、物なりは良い! 教育だつて熱心な県だ。
我々生徒側には、嫌われる理由が、思い当たらない訳だ。
『 台風でさえ、岡山県は避けて通る……. 』と、先生は言う。
( 確かに、台風は、岡山県には来ません )
『 なんじゃ~!、 台風の話か~、しょうもねぇ~( 岡山弁で ) 』と、
生徒達は、はしゃぐ。生徒達が、しょうもねぇ~! を連発すると
粟根先生は、ニャ~ッと笑って、『 じゃあ、エエ事を教えてやる 』と
本題に入って行く訳だ。
『 君らも、そう遠くない将来 結婚する訳だ。
女子……、豪華な嫁入り荷物なんか持って行っても、仕方ないぞ!
男子…….嫁さん迎えるのに、立派な住まいを作るんじゃあないぞ!
結婚生活を全うするに、そんなもんはたいした役には立たんぞ!
女子は、嫁入り荷物の替わりに、一間の本箱と、それに一杯の本を持って
行きなさい。
《 うちの嫁さんは、こんなに本を読んでる女性だから…….》と旦那は一目置くから….。
男子も、いっしょだ!
新居には、一間書棚と、それに満杯の本を準備しなさい。
《 ああ、うちの旦那は、本をよく読んでるな~ 》と、知らぬ間に嫁さんが
尊敬の気持ちを持ってくれるから。』
我が家も、意識のどこかに、粟根先生のこの御宣託が残っていたのだろう。
新所帯には、他の荷物を圧倒する、立派な一間書棚が有った。
って言うか……一点、そこだけが豪華だった(笑)。
お陰で、本を読む楽しみは身についた。
[ハウツー本] は、タイトル程、役にはたたない。 だが、小説は違う。
役に立つ!
生きとし生ける者が、すべからく、行き止まり、うつむき、涙し、迷った時の
地図であり、道しるべだ! と私は思っている。